大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5298号 判決

原告 佐野利三郎

右訴訟代理人弁護士 阪岡誠

同 松本光郎

同 後藤英三

右訴訟復代理人弁護士 佐野隆雄

同 山田正明

同 猪熊重二

被告 大島とし子

右訴訟代理人弁護士 利穂要次

同 山口進太郎

同 菅原裕

同 山田直大

右訴訟復代理人弁護士 中野高志

主文

(一)被告から原告に対する東京地方裁判所昭和三三年(ノ)第四七六号事件の調停調書第三および第七項に基づく強制執行は、元本金二四九、六一〇円五七銭およびこれに対する昭和三九年七月二三日から支払済みに至るまで日歩八銭の割合による損害金の支払の限度を越えてはこれを許さない。

(二)原告のその余の請求を棄却する。

(三)訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

(四)本件につき、当裁判所が昭和三七年七月七日にした強制執行停止決定を次のとおり変更する。

前記債務名義に基づく強制執行につき、元本金二四九、六一〇円五七銭およびこれに対する昭和三九年七月二三日から支払済みに至るまで日歩八銭の割合による損害金の支払の限度を越える部分は停止する。

(五)この判決は、前項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、申立〈省略〉

第二、主張

一、請求原因の一(債務名義の存在)

原・被告間には、本件債務名義が存在し、この債務名義第三項には原告が被告に対し、金一、一五〇、〇〇〇円を昭和三五年九月末日限り金一五〇、〇〇〇円同年一〇月から完済に至るまで毎月末日限り金一〇〇、〇〇〇円ずつに分割して支払う旨第七項には、原告が右分割払をその額二回分怠ったときは、期限の利益を失い残額全部を一時に支払い、遅滞のときは日歩八銭の割合による損害金を支払う旨の記載がある。〈以下省略〉。

理由

一、請求原因の一記載の事実は、当事者間に争いがない。

二、先履行の約定について〈省略〉

三、弁済について

原告が、本件調停成立の際、調停条項の一つとして、被告に対し、金一、一五〇、〇〇〇円の支払いにつき、期限を、昭和三五年九月末日限り金一五〇、〇〇〇円、その後同年一〇月から支払済みに至るまで毎月末日限り金一〇〇、〇〇〇円ずつとし、支払いをその額二回分怠ったときは期限の利益を失い、遅滞のときから残額に対し日歩八銭の割合による損害金を支払う旨を約した事実については当事者間に争いがない。原告が被告に対し、元本金一〇〇、〇〇〇円を支払ったことは、当事者間に争いなく、〈証拠〉によれば、右弁済の日は昭和三五年一〇月三一日であることが認められる。そうするとこれは弁済期の先に到来した昭和三五年九月末日支払約束の金一五〇、〇〇〇円の割賦金の弁済に充当されたわけであるが、同年一〇月分および同年一一月分の割賦金を弁済したことは主張立証がないから、同年一一月末日の経過により支払いが同年一〇月分および一一月分の二回分滞ったことになる。従って原告はこれにより期限の利益を失い、被告に対し元本残金一、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する期限の利益を失った日の翌日である昭和三五年一二月一日から支払済みに至るまで約定の日歩八銭の割合による損害金の支払義務を負ったことになる。

原告が被告に対し昭和三六年一二月一三日から三回にわたって合計金五〇〇、〇〇〇円を支払ったことは、当事者間に争いないが、これらが元本に充当されたことの立証がないから法定充当の規定に従って充当が行われることになる。そうすると昭和三六年一二月一三日の金三〇〇、〇〇〇円の弁済は、まず昭和三五年一二月一日から昭和三六年一二月一三日に至るまでの損害金合計金三〇二、四〇〇円の債務に充当され、昭和三七年二月二三日の金一〇〇、〇〇〇円の弁済は、まず右損害金債務の残金二、四〇〇円に充当され、次に昭和三六年一二月一四日から昭和三七年二月二三日に至るまでの損害金合計金五七、六〇〇円の債務に充当され、残額金四〇、〇〇〇円が元本に充当される。同年四月一四日の金一〇〇、〇〇〇円の弁済は、まず元本残金九六〇、〇〇〇円に対する同年二月二四日から同年四月一四日に至るまでの損害金合計金三八、四〇〇円に充当され、残額金六一、六〇〇円が元本に充当され、これにより残債務は元本残金八九八、四〇〇円およびこれに対する昭和三七年四月一五日から支払済みに至るまで日歩八銭の割合による損害金となる。そうすると、原告は被告に対し、本件債務名義に基づき、なお同額の債務を負っていることになるので、相殺の主張につき判断する。

四、相殺について

(一)  自働債権の成立

村山外一名と被告との間に、原告主張のとおりの訴訟上の和解が成立したことおよび被告が、村山に対し、昭和二八年八月一一日から昭和三二年八月九日に至るまでの間に総額金五〇五、〇〇〇円の元本を支払ったことについては当事者間に争いがない。被告は、右金員を弁済した日時につき、何ら具体的な主張立証をしないが、これを被告に最も有利に解しいずれも期限内に支払い各月分の割賦金に充当したものとしても、なお昭和二九年九月分につき金二五、〇〇〇円の債務が残り、これと同年一〇月分および一一月分の債務が残り、これと同年一〇月および一一月分の債務を加え合計金九五、〇〇〇円の債務の履行を遅滞したことになる。従って被告は、遅くとも同年一一月末日の経過により期限の利益を失い、村山に対し、元本残金八九五、〇〇〇円およびこれに対する期限の利益を失った日の翌日である昭和二九年一二月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負ったことになる。

被告が、右和解成立の際、村山に対し和解に基づく債務の担保として別紙目録記載の各物件を譲渡したことおよび村山が、被告から、右譲渡担保権の実行として、右各物件の引渡しを受けたことについては当事者間に争いがない。その際の右各物件の債務充当のための評価額については、合計金一〇〇、〇〇〇円の範囲までは当事者間に争いがない。被告は、これを金一、〇三五、〇〇〇円に評価して債務の弁済に充当したと主張し、成立に争いのない甲第七号証には右各物件につき被告の主張に添う評価額の記載がある。しかし同号証によれば、これは訴訟上の和解が成立した時の評価額であり、かつ右各物件は、和解成立後も被告が占有使用する旨の約であった事実を認めることができるから、右記載のみによっては現実に村山が右各物件につき譲渡担保権を実行した時被告主張のとおりの評価額をもって債務の弁済に充当したことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると右各物件は金一〇〇、〇〇〇円に評価されて譲渡担保権の実行として債務の弁済に充当されたものと言わざるを得ず、これが元本に充当されたことについては当事者間に争いがない。そこで、被告は、村山に対し、少くとも元本残金七九五、〇〇〇円およびこれに対する昭和二九年一二月一日から支払済に至るまで年五分の割合による損害金の支払義務を負っていたことになる。

(二)  債権譲渡

村山が、昭和三九年七月二三日被告に到達した書面をもって、村山の被告に対する債権の内金七九五、〇〇〇円およびこれに対する昭和二九年一二月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による損害金の債権を譲渡した旨の通知をしたことは当事者間に争いない。そうすると特別の事情のない限り、右債権は譲渡されたものと推認されるから、原告は被告に対し、同額の債権を取得し、昭和三九年七月二三日右債権の譲受を被告に対抗できることになった。

(三)  相殺の充当

そうすると、被告の原告に対する本件債務名義に基づく債権(以下、受働債権という。)と、原告の被告に対する右譲受債権(以下自働債権という。)とは、昭和三九年七月二三日、相殺適状になったことになるから、原告が昭和四三年三月四日の本件口頭弁論期日においてした相殺の意思表示により、右両債権は、昭和三九年七月二三日に遡って、対当額において消滅したことになる。

原・被告とも充当の指定につき何らの主張、立証もしないから、法定充当の規定に従って充当が行われることになり、まず、受働債権についての昭和三七年四月一五日から昭和三九年七月二二日に至るまでの間の損害金合計金五二九、四九八円八八銭と、自働債権についての昭和二九年一二月一日から昭和三九年七月二二日に至るまでの損害金合計金三八三、二八八円三一銭とが対当額において消滅し、受働債権についての損害金一四六、二一〇円五七銭が残り、これと自働債権元本とが対当額において消滅し、自働債権元本金六四八、七八九円四三銭が残りこれと受働債権元本とが対当額において消滅し、受働債権元本金二四九、六一〇円五七銭が残る。そこで、原告は、被告に対し、なお、本件債務名義に基づき、元本残金二四九、六一〇円五七銭およびこれに対する昭和三九年七月二三日から支払済みに至るまで日歩八銭の割合による損害金の支払義務を負っていることになる。

五、結論

そうすると、本件債務名義第三および第七項に基づく債務のうち右金員を越える部分については、原告は、被告に対し債務を負っていないから、この部分に限り、強制執行の排除を求める本訴請求は正当であり、その余は失当である。よって本訴請求のうち、右のとおり正当な部分を認容し、その余を棄却する。

〈以下省略〉。

(裁判長裁判官 岩村弘雄 裁判官 原健三郎 江田五月)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例